87Rb気体原子のボース・アインシュタイン凝縮体の実験研究


 ボース・アインシュタイン凝縮(Bose-Einstein condensation; BEC)とは、整数スピンを持つ粒子(光子や中間子および全角運動量が整数のエネルギー準位状態にある原子など)の集団が、系の最低エネルギー状態に凝縮する(集まる)現象です。20世紀初頭に A. Einstein がインドの理論物理学者 S. Bose から送られてきた光の統計性に研究に関する手紙をきっかけにして、理想気体においてこの現象が起きることを理論的に予言しました。

 EinsteinがBECの理論を発表した当時は、この現象はあくまで机上の理論であり、それを実験で確かめることは不可能だと考えられていたようです。しかし研究の進展に伴い、BECは超伝導や超流動を引き起こす基本的なメカニズムであることが明らかにされています。また、1995年に理想ボース気体に近い、希薄(低密度)な原子気体(Rb, Na, Li等)においてもBECが実験的に生成されており、
巨視的量子現象 光と物質の相互作用 を研究する舞台として大いに活用されています。

 我々の研究室では2008年10月に87Rb原子ガスのボース・アインシュタイン凝縮体の生成に成功しました。現在以下のテーマを研究しています。

● 超流動体に現れる特異な現象である 量子渦 の研究

 ボース・アインシュタイン凝縮体は非常に純度の高い超流動体であり、この物質に特有の様々なユニークな現象が存在します。その一つが 量子渦 です。量子渦は量子化された(角運動量が離散的な値をとる)渦であり、複数の量子渦が存在する場合それらがきれいに格子状に配列するといった面白い振舞いをします。

 量子渦を生成する方法は複数ありますが、我々は、位相幾何学的な方法 に着目しています。この方法は、外部から印加する磁場の方向を反転させるだけで 凝縮体の(波動関数の)位相を操作 し量子渦を生成できる簡便で非常に巧みな方法であり、 多重渦度を有する量子渦 を生成可能です。

 「渦度」とは量子渦を特徴づける量子数です。量子渦がある場合、その回転軸を中心に凝縮体の周りを一回転する軌道をなぞってやると凝縮体の波動関数(秩序変数とも言います)の位相が 2π×n (n: 1, 2, 3, .......)変化します。この n が渦度です。多重渦度(n が2以上)をもった凝縮体は単一渦度(n = 1)の量子渦に崩壊します。これは多重渦度をもった量子渦の方が単一渦度の量子渦よりエネルギーが高いからです。ただし角運動量の保存則から、たとえば n = 4 の 1 個の量子渦は 4 つの単一渦度量子渦に崩壊します。この崩壊過程においてどのように渦が変化していくかは、非常に興味深いテーマであると考えています。
我々は現在、渦度 4 をもつ量子渦の生成に成功 しており、今後はそのダイナミクスを詳細に研究してく予定です。

 一方、光のみで凝縮体を保持できる 光トラップ を用いることで原子の豊富な内部エネルギー状態を活かした研究が可能となります。内部自由度(スピン自由度とも言います)をもつ凝縮体は「自由度」があるがゆえに様々なユニークな現象・ダイナミクスが生じることが理論研究により指摘されています。

 我々は
内部自由度のあるボース・アインシュタイン凝縮体 中に 多重渦度をもつ量子渦 を生成して、超流動性の理解を深める研究や理論的に予言されている新奇な磁性相の探索等の研究を進めていく予定です。

実験に関わるいろんな写真

BEC実験に関わるデータ・画像