電磁誘起透明化を利用した原子への光の閉じ込めの実験研究

  電磁誘導透明化(Electromagnetically Induced Transparency: EIT)とは、原子や物質に共鳴光(原子や物質に吸収される波長をもった光)を照射した時、ある特定の条件下で吸収が起きなくなる現象であり、光と物質の相互作用における量子干渉効果が重要な役割を担っています。

  EITを用いると、光(正確には光の群速度)を自転車の速度程度という極めて遅い速度にすることができます。さらには、物質(原子)の中に光を閉じ込めることまで可能です。つまり,EITを利用して光の持つ量子性を保持したまま光を蓄積できる実用的なデバイスを実現できる可能性があります。現在この光メモリー(量子メモリー)は実用化されていません。次世代の情報処理技術として活発に研究開発が行われている量子情報処理では量子メモリーは不可欠な要素技術です。EITを利用した原子系への光(量子情報)の保存は、量子メモリーの候補の一つであり、非常に重要な研究テーマであると考えています。

 現在、ガラスセル中の70℃程度のルビジウム(Rb)原子を使ってEITの基礎研究を行っており、コヒーレント光(レーザー光)の原子内への保存に成功しています。まだ、保存時間は 20 μs程度ですが、今後、浮遊磁場の除去やレーザー周波数線幅のさらなる狭窄化等の改善を行い、保存の長時間化や冷却原子を使った実験に発展させていく予定です。

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